貴方の見ているドメインは

ドメイン www.discounted-meridia.com

このページについて

    二人は自転車をひきずつたまゝ近よつた。

    次に記すのは、ほんとうの怪談らしい話である。

    体が、と云ふより声が引つこむと、代りにそこに姿を現したのは盛子だつた。すると、うす暗い台所の板敷の上に眩しいやうな、うすい葉洩れ日のやうな気配けはいが立つた。

    「それあ、いかん。こんなに多くはいらんよ」

    さう呟きながら、下手を眺めた。

    徳次は自分のことのやうに熱心に路順を考へた。

    「わたしやア――」

    「馬子まごにも衣裳つて云ふから――」と云つたほどである。

    徳次はしばらく考へていた。

    「ですが、一体財産譲渡つて云ふのはいつのことなんです、大分前ぢやないですか」

    両隣りに挨拶するのも、土産ものを贈るのも、ここに長く滞在すると思えばこそで、一泊や二泊で立去ると思えば、たがいに面倒な挨拶もしないわけである。こんな挨拶や交際は、一面からいえば面倒に相違ないが、またその代りに、浴客同士のあいだに一種の親しみを生じて、風呂場で出逢っても、廊下で出逢っても、互いに打解けて挨拶をする。病人などに対しては容体をきく。要するに、一つ宿に滞在する客はみな友達であるという風で、なんとなく安らかな心持で昼夜を送ることが出来る。こうした湯治場気分は今日は求め得られない。

    「どうもこれぢや――」

    「さあ、知らん」

1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 | 17 | 18 | 19 | 20 | 21 | 22 | 23 | 24 | 25 | 26 | 27 | 28 | 29 | 30 | 31 | 32 | 33 | 34 | 35 | 36 | 37 | 38 | 39 | 40