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「かりに、おれが真正面から反抗的に出て、それがために住みにくくなつたとしても、同じことだ」
徳次は又ぐらりとした。
「千光寺さんに使ひをやつたのかい。――誰もまだ行かないつて?――何あんて間抜けだのう。庄どん、お前一つ行つて来とくれ。提灯ちやうちんを忘れるなよ。もう皆さんがお集りですからお迎へに上りました、つて云ふんだよ。うん、うん、さうよ。いつしよにお伴をしておいで」
正文は顎をつき出しては一寸笑つて、ふむ、ふむ、とひとりでうなづいていた。
と、徳次は足を踏ん張つたまゝ今泉に云ひかけた。こんなに彼の方から話しかけるなんてことは滅多になかつたので、よほど虫のいどころがよかつたのだらうが、それでもいつものあの愚弄するやうな色は争はれなかつた。
時々、澄んだ甘い柔味のある、痩せたすんなりした身体つきを想像させるやうな盛子の声が、はじめは稍張りのある調子で起つて、途中で何かしらはにかんだやうに細く聞えがたくなり、又時々ピツと語尾が跳ね上るやうになつて響いて来た。それは身体の動きとは別に、声そのものが絶えずどこかに柔かくくつついたり離れたり、又そこらを歩きまはつたりしているやうであつた。
云ひながら、腹帯の中からまるで金入れとは思へない位に大きな蟇口をとり出すと、十円札を何枚かつかんでいた。そして、ろくに返事も聞かないで房一に押しつけた。
「いや、あれは私が勝手に頼んで来てもらつたんですからな、御心配はいりませんよ」
房一は急いで膿盆をひきよせた。
「ねえ、高間さん。まあ、こつちへお寄んなさい」
男は力なげに口をあけていた。
房一が云ふと、喜作は突然びつくりするほど大きな口を開けて笑つた。