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    小谷は房一に話しかけた。

    「なあに、後から来るのんはほんの擦かすり傷みたいなもんやから、大事ありません。――時にせんせい、何んぼ差上げたらえゝでせう?」

    「ほう、さうか。それはちつとも知らなかつた」

    熱心になっていた「な」の字さんは多少失望したらしい顔をした。

    声をひそめて、富田が訊いた。

    と生返事をしながら、大工の口にした高間医院といふ名前が耳新しく響いたので、房一は思はず微笑した。

    「さうですね。さつきからどうもさうらしいと思つていたんですが、失礼しました」

    「さうです、小倉組の方ですな」

    練吉の口振りが意地の悪いものだつたにかゝはらず、今泉はむしろ話のきつかけを得たことを喜んでいる風だつた。

    いかにも得心した風に深くうなづいた道平はそれで又ゆつくりと脇きへどいて、さつきからやつていた通りの見物人にもどつた。彼はいつもの癖である尻はしよりの恰好で、真黒に日焼けした両脚を突き出したまゝ立つていた。今朝彼は河向ふの自分の家から息子の医者の家ができ上る様子を見に来たのだ。そのまゝ尻はしよりを下さないのである。老年の柔和さの現れたうるみのある眼をはつきりと開けて、別に口出しするわけでもない、たゞ房一の傍にいてその云ふことを聞き、することを眺めていた。その小ぢんまりとした体躯からは傍に立つている房一を想像させるものは見られなかつたが、足の短い、肩の張つた房一の身体の特長から道平の方に目をやると、ふしぎと何かしら似ていた。それはたゞ小さくて、皺が寄つているだけだつた。

    この路をそんな恰好で通るのは近くにある営林区署の役人か発電所の技手ぐらいのものだつた。だが、そのいづれでもないことは、段々近づくにつれて目につくあまり見かけない猪首のやうな肩つきと、自転車のハンドルにしがみついたやうに見えるその円まつちい体躯、それらの印象の与へるひどく不器用な乗り方などによつて、すぐと知ることができた。

    「どこか悪いですかな」

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